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Event Report

冨山和彦(IGPI)×諸藤周平(REAPRA)の対談動画を見ながら考える ポストコロナの経営テーマ 第1回

Event Report

経営共創基盤(IGPI)グループ会長の冨山和彦氏と弊社代表取締役Founder, CEOの諸藤周平による対談動画をご覧いただき、その内容をもとに、IGPIシンガポール取締役CEOの坂田幸樹氏、弊社取締役MDの松田竹生、同CFOの矢野方樹の3名によるパネルディスカッションを行う形式のウェビナーを2回に渡って行いました。本稿ではその第1回の模様をお届けいたします。 ※第2回はコチラからご覧下さい。


対談動画の概要


本ウェビナーの冒頭でご覧いただいたIGPI冨山氏とReapra諸藤の対談動画の概要をまとめています。詳しくはぜひ本編動画をご覧下さい。


「私の葛藤」

幼少期の環境や経験の記憶は人格形成に大きく寄与する。 諸藤は、多動な気質や学業不振から、愛情深く育ててくれた母親からのある言葉を囁かれたことをきっかけに、 社会からドロップアウトする恐怖を覚え、この恐怖から逃避する形で大学に進学し起業。

一方、冨山氏は、幼少期から類稀なる頭脳を持ちつつも、多動な性格に家庭的背景も加わり、 企業や国など秩序の下で動いている組織に対して敵愾心を持ちながら社会へと出ることになった。

二人は大企業に対する忌避感という共通点を持ちながら、諸藤が恐怖によって駆動していたのに対して、 冨山氏は敵対感によって駆動していた点では異なっていた。

「社会との共創」

「社会と共創する熟達」を掲げているReapraの諸藤と経営共創基盤グループの会長である冨山氏。 「共創」という言葉を掲げて組織を率いる二人にとって、この言葉はどのような意味を持っているのだろうか。

Reapraの起源をCEOの諸藤が語った。社会は常に動いていきながら機能分化し、 変動する社会との共創を熟達することに非常に大きな意義があるのではないかと考える。

冨山氏は社会において大規模化する組織が存在することは必然であり、 重要なのは様々な形態の組織がそれぞれの役割をしっかりと果すことだと語った。 大企業にしろベンチャーにしろどのような規模の組織であれ、 それぞれの価値観でステークホルダーにどう貢献することができるのか、 という課題に必死に向き合っている点は同じ。その中でお互いの持つ比較優位、 競争優位を多様性として認め合い使い合う、つまりは共創することが必要だと語った。

「ガバナンス改革」

企業におけるガバナンスというテーマは、自身の退任後も成長し続ける会社を創業した諸藤と、 日本の大企業におけるガバナンス改革に従事してきた冨山氏にとっても重大なテーマである。 冨山氏は大企業の経営陣が現在置かれている状況について言及した。

激化する競争市場の中で、かつて日本企業が莫大なシェアを誇っていたマーケットにおいても、 シェアを奪われつつある。だが、それだけでは危機感を持つまでには至らず、 製品市場で競争に負けた結果、財務的にも追い詰められたところで経営陣は資本市場からの圧迫を受ける。 そこで初めてガバナンスの議論が持ち上がるが、それでは遅い。

最終段階に行きつく前、早い段階で問題点に気づけるようになるためにもガバナンス改革が重要となる。 人材市場の動向も指標の一つとして着目している。ひと昔前までは当たり前の様に確保できた優秀な人材が、 スタートアップを選ぶ時代になっている。製品・資本・人材の3方面で行き詰まりを感じると、 いよいよ本気でガバナンス強化を推進する必要性を感じるようになるだろう。

IGPI坂田氏 × Reapra矢野・松田の対談


対談動画での話題を切り口に、IGPI坂田氏、Reapra松田・矢野の3名それぞれの取り組みをシェアしながら、パネルディスカッションを行いました。

ADT Event Report

Reapra矢野:

対談動画をもとに、我々から4つのテーマをピックアップいたしました。
・私の葛藤
・社会との共創
・大企業とスタートアップの役割分担
・ガバナンス改革
こちらのトピックに沿うような形で、話を進められたらと思います。

「私の葛藤」



ADT Event Report

Reapra矢野:
最初に、諸藤からの幼少期のお話がありました。 冨山さんは同調圧力に対して反発し、それらを代表して組織化されていた大企業に対して反発をなされていたそうです。
それを踏まえた上で、どのように周囲と変わっていくかという意味での共創という言葉が出てきました。REAPRAも「社会と共創する熟達」ということを掲げて進めています。
社会との共創という意味では、大企業も当然社会の一部であり、個人のレベルでも組織のレベルでも互いを認知しながらどのように共創していくのかということがお話の概要であります。
松田さんは個人としてこのテーマについてどのように思っていますか?

Reapra松田:
Reapraは、ここ二年間くらい社会と共創する熟達を掲げてきました。
私たちが投資するのは、超長期の時間軸で、成長が予想されるものの複雑性が高く、プレイヤーがいない領域にフォーカスしてきました。
逆にいえば超長期で時間軸を取るため、社会の変化が前提であり、共創をする必要がある。
起業家がそのような軸で領域の選定を行うことを方法論を持って支援しているのがReapraです。


私自身は、高度成長期に生まれ、社会の中で相対優位に勝たなければならないという恐れから、会計士になったり、MBAに行ったり、投資銀行に行って、その後2社のベンチャーの経営を行なった。
このような経験から今も比較的場所を探して戦うという囚われが結構あります。シンガポールに来てからは、competitionという意味での競争は減衰しているものの、やはり癖が残ってしまっていて、co-creationの共創をするときに、いかに自分が囚われてしまっているのかということを認識することになった。そこに私自身は大きな葛藤を抱いていて、ゆっくりでいいから自分を変容させようとしているのが現状です。


「社会との共創」



Reapra矢野:
今出てきた、competitionという競争から社会との共創への転換というのは、 投資銀行で戦ってきた私も頭でわかっていても、実際にやるのはすごく難しいと思っています。 坂田さんはIGPIで日本語名では共創という言葉がありますが、坂田さんが受けとるこの言葉の意味することはなんでしょうか?

IGPI坂田:

弊社は英語だとIndustrial Growth Platformですが、日本語名は経営共創基盤です。なぜ「共創」という言葉を使っているかというと、社会にとっての共通善を追求し、どうやって社会の役に立っていくかを中心に事業を考えているからです。創業時に事業ドメインを明確に定義はしておらず、パートナー陣を筆頭に社会と共創するためにプラットフォームのケイパビリティを高めようとしています。その結果として、日本ではバス会社を運営したり、フィンランドでVCを立ち上げたり、オーストラリアでの事業が生まれています。

私は80年代にアメリカにいました。その時の日本企業の勢いは凄くて、学校の先生がNationalはアメリカの会社だと信じていたぐらい勢いがあった。しかしその数年後に、どんどんそれが崩れていったのを目の当たりにして、そこから産業に貢献したいという思いを持ち今に至ります。大学時代も日本企業が海外でどのようにして戦っていくのかを学んでいたので、今もそういったところが関心事で、より深く知っていくための努力を続けています。




「大企業とスタートアップの役割分担」



Reapra矢野:

大企業のお話、大企業とベンチャーの役割分担であったり、トランスフォーメーションについて伺いたいと思います。坂田さんはどのようなことを見られていますか?



IGPI坂田:

東南アジアから景色を見ている私が感じているのは、 冨山の文脈とは少し異なるかもしれませんが、大企業とスタートアップを明確に区切ってしまっているのは微妙なのかなという事です。 結果として大企業がスタートアップと連携することが目的化してしまっていることが多い気がしています。スタートアップ側から見ても、共創というよりも資金を調達したり、何かを売ったりみたいな構図がよくないと思っています。
そのため、支援させていただく中では、誰のどのような課題を解決したいのかを考えることを大事にしています。 その過程においてスタートアップと組むのが良いのか、大企業の中でスタートアップを立ち上げるのか、いろんな選択肢を提示していくような支援をさせていただいています。

特に、大企業のトランスフォーメーションに際しては、内部でスタートアップを作っていく動きは有効だと思っていて、社内の壁や反対があったとしても、出島のような治外法権の場所を作って、そこをローカルの優秀な人材に任せていくことなどもできると思います。

Reapra矢野:

大企業とスタートアップの表面的な区分をしてしまうのがナンセンスというのはすごく共感しています。
今スタートアップがブームみたいなところで、お話にもあったようにCVC(コーポレートベンチャーキャピタル)という形で開発したりすることはあると思うのですが、 そのような領域で難しい点などをお伺いしたいです。



IGPI坂田:

事業創出をIdeation,Incubation,Scalingの三つのフェーズに分けて考えると、それぞれに課題があります。 Ideationのところでは、組織の壁やケイパビリティの不足。 中でも、情報不足は大きな課題です。
シンガポールやジャカルタのような都市で見えている情報と他の地域で見えている情報はかなり異なります。 また、それらの課題に対して、自社がどのようなソリューションを持っているか、顧客基盤やIPなどの資産を活用できるかを把握していないことも多々あります。

限られた社内外の情報でIdeationをしてしまうと、結果としてその後の伸びが小さくなってしまうと思います。 情報を集め、何ができるのかをちゃんと整理して初めて、社内のミッシングパーツが何か分かります。

その上で、必要に応じて誰と手を組んで事業を立ち上げていくのかというIncubationを考えることができます。 Scalingは日本企業が得意な領域なので、タネをまき、苗を育てるまでを慎重に取り組んでいけば、いい方向に進めると思います。



Reapra矢野:

IdeationとIncubationとその前提としての情報の部分に私自身は凄く興味があります。 情報を取り入れ、それに意義づけをし、戦略をたててオペレーションを回したりしていく。 そこにおいてどのような情報を自分が取り込んでいて、取り込めていないのかということ。
実際取り込めていないことはたくさんある中で、どうしても自分の元々の世界観にあった情報ばかりを吸収してしまい、異質な文化や環境などに適合できないという苦しみがあると感じています。 松田さんこのテーマで何かありますか?



Reapra松田:

二つくらいあります。Reapraの話で言えば、主戦場が0から起業家と創業するという形になっていて、会社のMissionは研究と実践を通して社会に貢献するということで、企業から成長と成熟、そして衰退していくものもあるけれど、その全域を見ていきたい。

その意味では、全てのフェーズはシームレスにつながっているのではないかなと思っていて、そこに対して大企業の方とも接点を持っていきたいと思っています。 スタートアップも大企業も結果的には全て繋がっていることを考えると坂田さんのおっしゃるように、大企業とベンチャーを区切るのはナンセンスだと思いました。

4つ目のテーマに関しては、自分が十数年スタートアップにいるけれど、十数年前だと考えられないような、大企業の方がスタートアップに来て、また戻っていくみたいなこともあります。 これがさらに進んでいくと、お互いの良さを生かしたあったり、より共創がなされていくようになると感じています。



「ガバナンス改革」



Reapra矢野:

僕が環境が変わって思うことは、スタートアップは、何もないところから作っていくため、VisionとMission以外は何もなく、それでしか人を見せるものはない。 むしろそのような抽象度の高いレイヤーで繋がっていけば表面的な垣根を超えていけるのではないかなと個人的には感じました。

さらにこの5番目のテーマに関しては後半のテーマともなりますが「ガバナンス改革」ということでありますが、松田さん、ご自身もガバナンスを研究の領域として設定されていますが、何か共有していただけますか?



Reapra松田:

一般に言われている、ガバナンスとは外れているように聞こえてしまうように思うのですが、我々が見ているスタートアップのガバナンスは特殊性があると思います。

会社がインパクトをもたらせるために動いていくときには、CEOがほとんどの株式を持っていて、ほとんど王様のような形で独占的に経営ができてしまう。

そのような状況に対して解決策となるのは、深く自分を知ることだと思います。 人間は善悪ではなく、性弱説、もともと弱いものであると捉え、その弱さを補完していく仕組みづくりのために、最初の一歩として自分自身を知る。 そうすることで他者を知り、組織を作っていくことができる。 私はそのようなお手伝いをしていると思っています。



Reapra矢野:

スタートアップにおけるガバナンスで言えば、大きな企業であればガバナンスとは耳にしない日がないくらい重要なテーマですが、 スタートアップにおいては事業を作ることが最優先で、ガバナンスってずいぶん先の話であるように感覚的に思ってしまうのですが、 松田さんとしてそこはガバナンスの捉え方が異なるのという感じている部分はございますか?



Reapra松田:

実際にそういったこと(スタートアップにおいては事業づくりが優先となり、ガバナンスは遠いテーマであると思うこと)があると思います。 ガバナンスという言葉の一般的なイメージは起業家の方にお話ししたときに別に違うように捉えられることが多いです。

私は勝手定義で公平性・透明性・効率性を担保するための仕組み作りですと話していて、そうだとすると攻めと守りという両面の話です。
そのため、それを仕組み化していって、より事業を作っていくというのは最初から必要なことだと思います。 自分が一人の人間として弱さがあることを自覚し、それを前提としてどう組織を作っていくのかってことを、day1で組織を作った時から埋め込んでいくことが重要だと思っています。



Reapra矢野:

カルチャー作りとも通ずるのかなと思いました。
坂田さんはガバナンスについて大きく直面することも多いと思うのですがいかがですか?



IGPI坂田:

創業から100年以上経っているような大企業の場合ファウンダーはもういないと思いますが、その企業を動かす力を持った人間を見つけて、その人を後押しするような仕組みを作らないといけないと思います。
ファウンダーはもともとはお客さんに貢献したいという想いから創業していますが、成長するに従って、customerではなく競合:competitorを見るようになって、最後に自社:companyのことばかり見るようになります。

大きな組織であっても、顧客や競合に目を向け続けるには強い独裁者のような経営者が必要になってくる。そんな人間をどのようにして見つけて、機能するように役割を与えるのか。 そして機能不全に陥った際に罷免する機能を持つことが非常に重要であると思います。 大企業もスタートアップの側から学ぶことがたくさんあるのかなと思いました。



Reapra矢野:

事前にいただいていた質問にも答えていきたいと思います。
日本国内のビジネス環境と比較してアジアならではのトピックスをお伺いしたいと思っています。 坂田さん、いかがでしょうか?



IGPI坂田:

アジアで言うと、最近相談が多いトピックは二つあります。

一つ目は両利きの経営で言うところの、探索領域に関する相談が増えています。 現地のスタートアップや財閥と連携したアイディアソンのような活動の支援が増えています。

二つ目は、コロナ禍のガバナンスについてで、リモート環境において如何にガバナンス改革を進めていくのかといった内容です。



Reapra矢野:

もう一つはロックダウン下の中で投資の方針の変更はありましたか?松田さん、こちらはReapraから見ている景色はいかがですか?



Reapra松田:

基本的に変わっていません。長い時間軸で伸びるけれども複雑性が故にまだ小さい且つ領域と起業家の組み合わせで投資の判断をしています。

一旦コロナによっていろんな変化や動きがあったけれども、コロナが理由で時間軸やスタンスを変えるようなことはしていませんでした。



Reapra矢野:

坂田さんの方はいかがでしょうか?



Reapra坂田:

あまり大きくは変わらないと思います。ただ、サプライチェーンを組み替えていくような動きは盛んになっているので、 投資領域としては探索領域よりも既存事業の深化領域に注目が集まっているのかなとは思っています。



Reapra矢野:

本日はご参加いただきありがとうございました。 平日のお昼の時間ではありますが、ご視聴いただければと思います。

と言うことで皆さんありがとうございました。






(文・構成 出口啓悟/中島慎治)


※なお、今回の対談はYoutubeで公開もされています。
Youtubeはこちら

坂田 幸樹 IGPIシンガポールCEO

外資系コンサルティング会社、外資系消費財メーカーを経て、リヴァンプに入社。ディレクターとしてアパレル企業、ファーストフードチェーン、システム会社などへのハンズオン支援(事業計画立案・実行、M&A、資金調達など)に従事。リヴァンプ支援先のシステム会社においては代表取締役に就任し、経営改革を推進。IGPI 参画後は、ロジスティクス、メディア、テレコム、広告、製造などの幅広い業界においてグローバル戦略立案・実行支援、クロスボーダーM&A の支援に従事。早稲田大学政治経済学部卒、IEビジネススクール経営学修士(MBA)


松田 竹生 REAPRAグループ CGO

グルーポンジャパン、エニグモのCFOとして2006年から合計7年間に渡り経営全般を指揮。2013年以降、シンガポールに拠点を移し、アジアでのシード投資等に従事。2015年1月にREAPRAにジョインし、CFOとしてファイナンス及び管理全般を管掌。2018年4月以降はグループ全体のコーポレートガバナンスを統括。CFO以前は、リーマンブラザーズ証券にて投資銀行業務 、監査法人トーマツにて監査業務等に従事。テキサス大学オースティン校経営大学院(MBA)、慶應義塾大学経済学部卒。


矢野 方樹 REAPRAグループ CFO

モルガンスタンレー(日本)にて合計17年間に渡り勤務。Equity Capital MarketsのHead / Managing Directorを務め、様々な産業領域、企業規模に対して、クロスボーダーでのIPO前後の資金調達にまつわる業務に従事。またプライベートエクイティファーム、アドバンテッジパートナーズにて未公開企業での経営支援の経験も有する。東京大学経済学部卒。