Reapra
Event Report

垂水隆幸さん✕諸藤周平(弊社CEO SMS創業者)の対談

Event Report

今回は、コーチング.com株式会社の代表取締役として経営者向けコーチングの世界でご活躍されている垂水さん主催の成人発達理論勉強会に、CEO諸藤とCFO矢野がゲストとして参加させていただきました。経営・組織のコーチングを主な領域としてとして活動される垂水さんと、ゼロイチからの産業創造を研究実践するReapra。それぞれの領域で成人発達理論を活用しているという共通点から実現した今回の対談。1時間半の語りの中の一部をお届けします。


1. CEO諸藤の内面の変遷: 幼い頃からの恐怖心と探究心


ーーー本勉強会では、成人発達理論をベースとした経営者の内面の変化に焦点を当て、 諸藤の生い立ちからエス・エム・エスの創業・経営を経てReapraでの挑戦に至るまでの内面の変遷を深掘った。

Reapra諸藤: 自分の両親は(それぞれの生い立ちから)子どもに自由な選択肢を与えたい、子どもを幸福にしてあげたいというアイデンティティを持っていました。 そのおかげで自分は幼少期に親からの愛情をたっぷり受けることができ、安心できる居場所があったことが自分の強い探究心のベースになったのだと感じています。

そうして家庭環境に恵まれながら育った自分ですが、小学3年生の時に自分が圧倒的に勉強ができないということに気が付きました。 兄と弟が成績が良かった一方で自分だけ勉強ができなかった。そのことを心配してくれた母親が、自分に様々な角度から「このままだと将来良い職業に就けないよ」ということを優しく囁いてくれました。

母親は子どもを幸福にしてあげたいという強い願いからそのような教育をしてくれたのですが、結果として自分は徐々に将来に対する恐怖心を抱くようになりました。 小5になってもカタカナが読めなかったりと勉強できないことを実感し、自分は将来どこかで社会からドロップアウトするのではないかという恐怖心がどんどん強化されていきました。

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そこで恐怖心を緩和するために「社会はテストほどシンプルではなくて、むしろ複雑なはずだから勉強ができなくても生きる道はあるはずだ」と思い込むようになりました。 その背景には、大学にいっておらず、勉強をしていないはずの叔父が家業を引き継いで会社を大きくしたことを目の当たりにしたこともあると思います。

自分はそこに商売は学歴と関係がないという希望の光を見出して、世の中の複雑な因果関係を見に行きたいという探究心を強化させていきました。 結局、未来への恐怖心は消えないまま運良く大学へ入ることはでき、大企業に就職してゆっくり生きていこうと思っていたのですが、バブルの崩壊後に山一證券などの大企業が次々と倒産しているのを見て、大企業に就職しても将来への恐怖心は消えないのではないかと思いました。

どうせ大企業に入っても恐怖心は消えないはずだから、起業して35歳までに一般的なサラリーマンの生涯年収である3億円を稼いでハワイに移住し、もし失敗したら中小企業で働くことにして、起業を決意しました。

垂水: 我々の世代というのは同質化競争の中で上にいくことで成功するパターンがもてはやされていた時代に生きていたと思っていて、 だんだん大人になるにつれて同質化競争の限界を感じてユニークネスというのが萌芽すると思うのですが、 諸藤さんは幼少期から同質化競争と社会を複雑に捉えるユニークネスというのがぶつかりあっていたんですね。

Reapra諸藤: そうですね。基本的に将来を恐怖心という重心で捉えていたのですが、そのベースには純粋な探究心があり、 恐怖心探究心が丁度いいテンションで噛み合っていたことで、環境が整うと他者との競争を気にすることなく探求ができた。

恐怖心探究心のテンションが環境との組み合わせで偶発的に自分を熟達、学習という方向に向かわせてくれたと思っています。

垂水: それでは起業以降のお話を聞かせてもらってもいいですか?

Reapra諸藤: はい。自分は社会人を2年間やってから起業したのですが、起業してたったの3ヶ月でものすごい生きた心地がして、楽しいと思いました。 なぜ楽しいと思ったのかというと、それまで学校や会社という定められたレールの中で戦うことには戦意喪失していたのですが、 起業して自分で道を切り開くことなり、自分の探究心が解き放たれたのと同時に、定められたレールで戦わなくても生きていけることを感じたことで将来への恐怖心が取れたからだと思います。

会社はどんどん成長していったのですが、自分はもともと何者でもなかったのに、たまたま自我と環境がフィットしてうまくいった。 なので何者でもないはずの自分が上に座り続けることに違和感を感じていたし、社員たちも、そのような人がずっと上に居続ける会社で働きたいと思わないであろうと思い、35歳になったら辞めることを決意しました。

しかし、期限を決めたことで自分が良い経営をできたとは思っていません。なぜかというと、幼少期から社会を恐怖心で見ていた為に他者と協働することの成功体験もなければ、試行錯誤もしていないので、人向き合いに課題のある人間が他者と協働することなく、オタクっぽく効率的に利益をあげることにだけフォーカスして事業を回していた。

そして自分がいざ辞めるとなった時に、次に自分がやりたいことがわかっていなかったので、日本にいたらすぐに戻りたくなってしまうと思い、物理的に戻れないようにシンガポールに移住しました。

垂水: なるほど。ひょっとしたらエス・エム・エスでの成功は諸藤さんが子供の頃からある種冷めた目線で社会の構造を見ていて、 若干アウトサイダー気味だったから批判的に吟味するという視点が育まれたことが大きな要因かもしれませんね。

Reapra諸藤: そうですね。探究心がピュアにあった上でめっちゃ恐怖心に囚われていたので、結局囚われから社会を見ていた。 自分はその自我*が起業に役立ちました。自分が思うに、資本主義と相性の良い人は自分のように囚われ*が大きい人だと思うんですよね。 なのでもし現在の資本主義下で結実したいものが事業価値や社会的名声であれば、自我を暴走させたほうが成功しやすい側面があるのではないかと思いますね。

*自我:人の持つ心の器・意識構造のことを指す。 自我が大きくなること/広がることによって、人はより多くの視点を獲得することができる。 同時に、自己中心性を減退させていく。すなわち、自身の内外にある複雑性を深く広く認知することが出来るようになるというのが、自我発達である。 心理学の比喩で多く用いられる「アイスバーグモデル」において、自身が意識できている範囲を指す。

*囚われ:アイスバーグモデルなどにおける、「意識できていない部分(=無意識の部分)」を指す。 「囚われ」は、自身の自我構造における深部に位置するため、基本的に日々の生活で意識されない。 各人のもつ遺伝的要因や、幼少期の家庭・学校環境などによって形成された「世界や自身に対する思い込み」とも説明できる。 それは決して普遍的な真理ではないものの、幼少期から当然の真理として認識していたがために、疑われる余地もなく当人の無意識に生きている思い込みのことである。




2. Reapra=インダストリーの創造を「研究」と「実践」で繋ぐ


ーーーエス・エム・エスのCEO退任後、再び起業を決意し、シンガポールへ移住した諸藤。 自分がこれから何をしていきたいのか、悩み・葛藤しつつも、REAPRAの根源となる理念にたどり着く。


Reapra諸藤: もともと、僕は1つのインダストリーにこだわっているわけでも、知見が寄っているわけでもないので、 インダストリーができること自体を「研究」と「実践」でつないでいくというところにたどり着きました。 新しいインダストリーの候補となる領域を、アカデミアでの研究と株式会社としての実践を通して探索する。

以前から、アカデミアとビジネスがお互いにめちゃくちゃ断絶されているという感覚があったので、そこをつなげるというところに、 自分の知的好奇心もあるし、社会との接点も見出せるし、数多くすることで、結果的にこれは揺るぎなく動機づくなって思いました。 それで1個もうまくいかなくても、全然楽しいなと思えるなって思って。 これは多分運良く見つけられたんだなって思ったのが(シンガポールに移住してから)7・8ヶ月経ったところで。

なのでReapraっていうのはResearch and Practiceの略で、 基本は産業を作ることを「研究」と「実践」することで社会に貢献していこうという意味があります。 一旦、東南アジア、及び(日本を含めた)アジアパシフィック。

そこ全体を見て、意図してその地域から始まってグローバルになるとか、将来有望なんだけど、 まだマーケットが複雑なので小さいというところで「研究」と「実践」をするっていう。 それをやっていきたいなというので、すっきりしました。



3. Reapraで重視するもの。事業計画より、人

垂水: Reapraさんの中で、成人発達理論を、投資先の支援にも入れてらっしゃる背景ってどういうところにあるのですか?

Reapra矢野: そうですね。 私が(Reapraに)転職をして結構戸惑ったのは、以前働いていた投資銀行では、 ビジネスを見る時に、事業計画をつぶさに見ていたのですが、その検証する事業計画が(Reapraの投資先でゼロイチステージの場合)ないという点です。 作れっていえば作れるのだと思うのですが、そこを緻密にみていくことにあまり意味がなくて。

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必要性としても、「人」と言ったところを見て行かざるをえないというようなフィールドでやっているのかな、と思っています。 そういう点で、今まで歩んできた環境とは違う環境で仕事をしていると感じます。

Reapraとしての成人発達理論と言うと、人、経営者自身にフォーカスしているところだと思います。 組織は経営者の器以上には大きくならないというような話があると思いますが、そこを見ていく時の1つの方法論として、 成人発達理論を、丁度私が2年前に入った時ぐらいから深く見始めました。

Reapra諸藤: 少なくとも僕らのフィールドって、将来有望だけどまだ小さいがゆえに学習に集中したことで成長もできるし、 会社も成長するし、経営者も人間的に成長できるそのフィールドでしか価値が出せないと思っているので。

そこにおいては多分、自己向き合い、自我発達、自我の重心を動かすことと、 囚われているものと向き合っていくということは当然関連してるなっていうふうに思っています。

ただ専門家でもないので、試行錯誤しています。具体的にいうと、経営者が自己に向き合えないのは、 実は伴走者である自分たちがインターナルで向き合っていなくて、支援に包容力がないからなのではないかという仮説も持っています。

自身が実践していないのに、僕らが起業家に「こうやればうまくやっていける」とアドバイスをするアプローチ自体に矛盾があるので、 僕ら自身が何かで熟達しないとと思い、それぞれ構成員が社会と共創する熟達(マスタリー)*というテーマを持つことにしています。

起業家は産業を作ることにおいて熟達を目指し、Reapraの社内の人は何かの領域で世代を跨ぐような社会課題を解決することにおいて熟達していくっていうテーマを持って、 自分自身が向き合っている解像度で、投資先起業家の自己向き合いを支援していくという方針になっています。



*社会と共創する熟達(マスタリー):ReapraがWayとして掲げている熟達の概念。 今は小さいが、中長期で社会課題を解決していくような唯一無二の概念を構築することで持続的な社会貢献、自己統制、 幸福感を獲得することを目的とし、自らが実践を通じて経験学習し続ける思考と行動の様式を指している。 例えばReapraの社員の中には「次世代のコーポレート・ガバナンス」をテーマにしている人もいれば、 「人と組織が相互に学習し続けられる仕組みを構築し、運用する」をテーマにしている人もいます。




4. 現代の若者と自己変容。コーチングと企業家支援を重ね合わせて見えるもの。


垂水: 僕、コーチングやっているじゃないですか。 30代とかで起業している方とか、あるいは結構いい会社さん、 ベンチャーの役員さんとかが結構クライアントでいらっしゃるのですが、 僕らの世代と結構違うなって思うんですよね。

今の30代とか20代のみなさんっていわゆる、ステレオタイプ的な成功モデルみたいなもの、 例えば大企業に入ればオッケーだよみたいな、その一律の物語がそもそもない中で、 しかも経済成長も生まれた頃から低成長の状態だと思います。

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ある種、発達論的に言うと、自分の実存みたいなもの、 単なるインパクトを大きくすると言うことだけではなしに、 自分の人生の中でどう言うふうな価値貢献をしていくのかって言う問いに、 若いうちから向き合っている方って結構多いんだろうなと言う気がしていて。

そう言う意味では、Reapraさんが意図しているような、 自己変容の可能性のようなものを加味した、投資ができる予備軍みたいな人は、 若い方の中にはちょっと増えているような印象もあるのですが、実際どうなのでしょうね。 あくまで私の印象なのですが。

Reapra諸藤: 私はそう思いますね。 なので、ポテンシャルベースでいくと、かなり多くの人が本来一緒にやっていきたい人なのだろうなと感じています。 あとは僕らのケイパビリティとの組み合わせなのかなと思います。 世代で切った時には、明らかに若い人の方が当たり前のように、何かを変えなければいけないと言う意識が強い。

ただ、人口のボリュームゾーンでは、それほどエネルギーがないので、社会全体として動いていなくて、 そこの閉塞感とか葛藤とかがより強く、エネルギーとして持っているのかなと思います。

Reapra矢野: 私今シンガポールにいて、東南アジア側でも各国で活動してるんで、 見てると、(若い世代)×日本の特徴というのもあるのではないかと思っています。

成人発達理論、あるいはそれに準ずるような人間成長の議論は、 特に日本側で若い企業家志望の方と話していると非常に関心高く持っていただいているなっていうふうに感じますね。

それはもしかしたら垂水さんもコーチングというところで、垂水さんご自身も活動として、 より範囲を広げられて、最近では新社会人の方も含めて活動されていると思うんですけど、 なんとなく感じることが重なる部分なのかもしれないと思いました。



(文・構成 吉良慶信/村西純奈)


※なお、今回の対談はYoutubeで公開もされています。
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垂水 隆幸 コーチング.com株式会社 代表取締役

ベンチャー企業向けの戦略・組織コンサルティングを手掛ける傍ら、プロコーチとして企業トップ、役員、起業家を中心にエグゼクティブコーチングを提供。株式会社ROXX、ZaPASS JapanのCHROを兼務。非営利の取り組みとしてコミュニティ・コーチング・エコシステムという相互援助システムを社会に隈なく届ける取り組みを進めている。元レバレジーズ取締役兼経営企画室長/元㈱経営共創基盤のディレクター。上智大学法学部卒業。


諸藤 周平 REAPRAグループ CEO

株式会社エス・エム・エス(東証一部上場)の創業者であり、11年間にわたり代表取締役社長として同社の東証一部上場、アジア展開など成長を牽引。同社退任後2014年より、シンガポールにて、REAPRA PTE. LTD.を創業。東南アジア・日本を中心に、数多くのビジネスを立ち上げる事業グループを形成する。1977年生まれ。九州大学経済学部卒業。


矢野 方樹 REAPRAグループ CFO

モルガンスタンレー(日本)にて合計17年間に渡り勤務。Equity Capital MarketsのHead / Managing Directorを務め、様々な産業領域、企業規模に対して、クロスボーダーでのIPO前後の資金調達にまつわる業務に従事。またプライベートエクイティファーム、アドバンテッジパートナーズにて未公開企業での経営支援の経験も有する。東京大学経済学部卒。