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人的資本への投資と社会のウェルビーング

人的資本への投資と社会のウェルビーング【馬奈木 俊介×荻原 英人×Reapra 対談】

Event Report

今、日本のみならず世界においてもっと環境や社会、人に目を向けた企業経営や投資をしていこうという考えが広がってきており、ESG投資やSDGsが注目を浴びています。このように、従来の財務指標には現れない指標で企業を再評価していこうという流れの中で、どのような指標を見ていけばいいのかということに迷いを感じている方もいらっしゃるのではないでしょうか?
このように、社会において非財務分野をどう数値化し指標として経営に取り込んでいくのかに注目が集まっている中で、今回は、非財務指標も取り込んだ国連の「新国富指標2018」の代表をされている 九州大学の馬奈木俊介教授と、1998年から従業員のウェルビーング向上という指標化しにくい領域に取り組んできたピースマインド株式会社 代表取締役の荻原英人さんをお招きし、「人的資本への投資と社会のウェルビーング」というテーマで対談を行いました。ReapraグループCFOの矢野が進行役となり、馬奈木さん、ピースマインド社、そしてReapraグループのそれぞれが、このテーマに対してどのような関わりを持っているのか、そして、今後どのように協働していけそうなのかについて話し合いました。1時間の対談の中の一部を抜粋してお届けします。


登壇者紹介


馬奈木 俊介氏 九州大学大学院工学研究院 都市システム工学講座 教授 / 九州大学都市研究センター長 & 主幹教授

工学修士、Ph.D.(経済学)。サウスカロライナ州立大学講師、東北大学准教授を経て、九州大学大学院工学研究院教授。
社会課題に向き合う企業との協業を通して、課題を解決するような要素を経済的な価値で計測する。 国連の「新国富指標2018」の代表。国連「気候変動に関する政府間パネル(IPCC)」代表執筆者、 「生物多様性及び生態系サービスに関する政府間科学政策プラットフォーム」(IPBES)統括代表執筆者、 OECD(経済協力開発機構 貿易・環境部会)副議長、2018年・世界環境資源経済学会共同議長。書籍『持続可能なまちづくり―データで見る豊かさ』、 『豊かさの価値評価―新国富指標の構築』出版。

馬奈木研究室 ウェブサイト



荻原 英人氏 ピースマインド株式会社 代表取締役

1998年にピースマインド株式会社を創業。
『はたらく人が抱える「不」を解決し、心豊かな未来を創る』というミッションのもと、 企業向けに、はたらく人たちのより良い職業生活の支援に携わる。 ピースマインド株式会社では、元々グローバル企業での導入が進んでいた、Employee Assistance Program(従業員支援プログラム)を国内に一早く導入。心理学や行動科学の観点から、はたらく人と職場のウェルビーイング向上をサポートしている。国際基督教大学(ICU)教養学部国際関係学科卒。 国際EAP協会認定 国際EAPコンサルタント(CEAP)、産業カウンセラー。

ピースマインド株式会社 ウェブサイト



矢野 方樹 REAPRAグループ CFO

モルガンスタンレー(日本)にて合計17年間に渡り勤務。Equity Capital MarketsのHead / Managing Directorを務め、様々な産業領域、企業規模に対して、クロスボーダーでのIPO前後の資金調達にまつわる業務に従事。またプライベートエクイティファーム、アドバンテッジパートナーズにて未公開企業での経営支援の経験も有する。東京大学経済学部卒。





1. ピースマインド株式会社の創業背景


矢野 (以下敬称略):  

ピースマインド社が1998年に創業されたタイミングでは、今ほど人的資本の話やピースマインド社が事業として取り組まれている「メンタルヘルス」に対して、世間的な注目がされていなかったと思います。そのような時代背景の中で、起業された時の思い、当時から見てきた社会の変遷、その中で会社としてどういうことを試行錯誤しながら取り組まれてきたかをお聞かせください。


荻原:  

おっしゃる通り、ピースマインドの創業期は日本の企業の大きな転換期でした。創業した1998年前後は、山一証券や日本長期信用銀行(長銀)が潰れてしまうなど、安定していると思われていた大企業が次々と倒産し、大企業神話が崩れ去ったと言われていました。バブルが弾けた後の不景気の中で、いろいろな企業の常識が崩れていった時代でした。

人の面で言うと、1997年に25,000人程度だった自殺者が急増し、1998年には年間3万人を超えていました。そして、1998年から14年間程は、自殺者が3万人台という高い数値で推移していたのです。日本の経済成長が高止まりになって、自殺者が増えてしまう状況に、「何かこれは変えないといけない」という問題意識が私の中にうまれてきました。その流れでメンタルヘルスというテーマに出会ったのです。

お伝えしたような時代背景から、社会のソフト面を支える仕組みが絶対に必要だなと感じて、まずはメンタルヘルスのサポートを社会に根付かせる為に、サービスにアクセスしやすい仕組みを作れないかと考えました。ちょうどインターネットがこれからという時期だったので、最初はオンラインのカウンセリングサービスを用意し、必要な人がアクセスできる仕組みを作るというところからスタートしました。

その時はまだメンタルヘルスというと「一部の人のこと」というイメージが社会の認識であったと思います。ですが、メンタルヘルスが社会課題として浮き彫りになるようになってきたり、厚労省からのプッシュもあって、段々企業経営においても重視されるようになってきました。20年前の創業期から振り返ると、だいぶ景色が変わってきたなという風に感じます。



2. 馬奈木さんとピースマインド社の共同の背景


矢野:  

馬奈木さんはピースマインド社のリサーチアドバイザーという形で活動されている他にも、国連という国際舞台でより良い社会を作るためのイニシアチブを取られていると思います。非常に広範な社会問題について取り組まれてきた中で、ピースマインド社の事業は、どのように見えているのでしょうか。


馬奈木:

ピースマインド社の事業をどのように拝見しているのかについてお答えする前に、私の問題意識について共有させてください。社会の尺度ってあると思うんですよね。企業だったら利益や売上は大事ですし、同じ産業の中で1位とか、地域で1位とか、そういう尺度もあります。日本全体でいくとGDPなどが尺度になります。ただ、それだけに注目するのが問題だというのは誰もが知っていました。そこで、新たな指標を検討しようというので、2012年から国連が色々な学者の研究結果をまとめて作り出したのが新国富指標になります。私は2014年から7年間、そこの代表を勤めています。

課題なのは、国連や国が作成する提言書が全て政府依頼だということです。政府が依頼を出したところで企業は実際その指標に移行しないですよね。移行するとしたら、それに対応する規制をするくらいです。例えば、ストレス度を測りましょうというのも一つですね。国連とか専門家というのは、そのような規制プロセスを促したり、制度を作ることには貢献してるのですが、やはりこれだけでは実際の変化に時間がかかります。

このような状況の中で、ピースマインド社は100万件の人のストレス度を計測したデータを持ってるという稀有な存在なのです。この情報をもとに分析をすると新しいことが色々分かります。もちろん一般的に知られていることと同じ結果だったりするのですけど、実際にストレスを解決することの価値の大きさや、どういうストレスが優先順位が高いのかといったことが可視化されるという意味で非常に価値があります。これを大きく発展させることで、ストレスを解決できる社会の組織のあり方や、それを活用した人のウェルビーイングの考え方、規制のあり方に繋がるので、このような情報は非常に大事です。マイクロデータを貯められたピースマインド社や、社会課題を率先的にプッシュされているReapra社と一緒に研究をしていくというのは、国際目線で見ても大事なのです。



3. 非財務情報の可視化


矢野:

馬奈木さんのお話の中で「可視化」というキーワードがあったと思います。私もCFOという立ち位置で見ていますと、ESG投資が注目されているということもあって、非財務情報をいかに可視化していくかということへの言及が多くなってきたなという印象です。他方で、ビジネスなどの現場で数字で現した時の威力と、それらの副作用みたいなのがあったりと、実際に非財務情報を可視化するまでには、まだまだ議論が必要な点が多いのではないかなと思っています。馬奈木さんは、国連の舞台で新国富指標という数字を使った新たな可視化をすることによって、グローバルに意識を変えていくという活動をされていると思います。その可視化をしていくにあたってどのような試行錯誤や、ご苦労があったのかについてお伺いしてもよろしいでしょうか?


馬奈木:

可視化で社会課題とか、GDPではないという話なると、極論になる人がいるんです。これまで重視されてきたGDPを使わないということは、経済成長しなくていいということなのか、とか。私は全くそうは言ってはなくて、経済成長は大事で、それがあるがゆえに人は幸せになりますし、ピースマインド社とのデータ分析の中でも、成長している組織の中にいるから働くことの意義を感じ、ストレスが少ないというのがあるんですよ。

そういう意味では、私が一番苦労したのは、経済成長推進とそうでないものを大事にするという立場の真ん中にいたので、両方から支持されにくい立場だったということです。バランスをとりながら支持を得ていくというのが一つの難しさでした。また、新国富指標の議論は、医療や環境、教育やインフラなどを全て同じ土俵で話すので、色々な領域を統合していくことにも難しさがありました。誰もが統合することの重要性は知っているのですが、たいていの専門家は一個に絞った議論をしています。ですので、様々な領域の統合して合意をするという部分も大きな挑戦でした。


矢野:

可視化という話で考えた時に、まさに馬奈木さんが言われたように、多様な立場があり、それぞれ固有の事情がある中で、何が本当に大事なものかというところを統一的に、普遍的に捉えられることに難しさがあると思います。Reapraもベンチャー投資で100社近くの投資先があるのですけれども、やはり個社それぞれ、あるいは起業家それぞれの固有性というのは当然ながらにあって。ただ、その中でも導出できる一般解を見つけて、それを社会に還元するというループを作ることができれば、Reapraのミッションでもある「産業創造することによって社会に貢献する」ということが繋がっていくと思っています。非常に難しいことではありますが、そこにチャレンジしたい。こういった固有性と普遍性のあいだを捉えに行くという観点で、ピースマインド社として取り組まれていることはありますか?


荻原:

固有性という観点では、人がどういう時にストレスを感じるのかや、幸福を感じるのかは、その人の生きてきた環境や触れてきた考え方、それまでのキャリアなど、色々な要素が関連してくるので千差万別だと思っています。我々はその「はたらくをよくする要素」が何なのかを探索し始めているところです。

特に、今の時代の流れに着目した時に、「人生100年時代」というキーワードがありますよね。生きる期間が長くなると、働く期間というのは当然長くなる訳で。そうすると、長期持続可能な形で働くことが重要であり、短期間で突っ走ってストレスが高くなり身体を壊しそうな働き方では成り立たない社会にもなってきているわけです。

個人の課題、悩み、チャレンジ。そのようなものと向き合って、自分を改善していく先に成長があるわけですが、心身共に良いコンディションでストレスを適切な形で対処していかないと、はたらく個人にとっては体調を崩してしまったり、組織としてのリスクになったりと「不」の要素にもなり得ます。例えば、働き過ぎや人間関係の悪さ、ハラスメントなどは悪いストレスですよね。そういった要素をできるだけ少なくしていくだけでなく、さらに良くしていく。そういったプラスの面に関しては、エンゲージメントや働きやすさ、成長実感などの色々な要素が考えられます。人と組織がサステイナブルであり続けるために、働く環境でのプラスとマイナスの要素は何なのかを、馬奈木先生も含めて、当社の持っているデータで探索している状況です。


4. 馬奈木さんとピースマインドの協業から見えてきたもの


矢野:

馬奈木さん、ピースマインド社との協業の中で、ピースマインド社がこの20年を越える事業の中で蓄積されてきたデータを分析されて、すでにプレスリリースなどで発表されていると思いますが、改めて、どんなところが注目に値すると思われますか?


馬奈木:

これまでは、ストレスは大した問題ではないという人が多かった時代もありましたよね。気合いで治せとか、根性が足りないとか。でも数字でみると、会社全体で見て平均百億円の損失が働く人のストレスからきているという分析結果が出たのです。これは、一人の社員あたり100万円〜150万円分の損失をしてるという計算になります。これが集積されると、100億円。

これって、逆に言えば、ストレスがない状況で働けたら、その分だけプラスで売り上げを出せたと言うことなのですよ。二十代の男性が、若い頃から定年までの50年ほどをずっとストレスなく働けたら、6000万円のプラス*になります。そのくらいストレスで会社を休む方、仕事の効率が下がる方が増えると、会社にとっては損失だということがわかりました。このように、数字として見ることができると、人事や経営者からすると、大事な問題なんだと気付くきっかけになります。ストレス管理が大事と提言するメンタルヘルスの専門家視点の話のみではなく、経済の価値でストレス管理の重要性を示すということができたと言うのはとても価値があるものだと思っています。


*参考記事:【調査結果】はたらく人が抱えるストレスに伴う経済的損失は、男性で生涯平均約6000万円に



矢野:

逆に荻原さんの方から、他分野でもご活躍されている馬奈木先生に分析・解釈して頂いた中で、新たな気づきはありましたか?


荻原:

ストレス自体が経済的にどのようなインパクトがあるのかというのは、今まで体感値で分かってたことでした。ただ、実際に具体的な数字として、ストレスが経済的な損失に繋がっているという結果が出たというのが、すごく大きな発見だと思っています。

我々は、「心豊かな未来を作る」というミッションで、目に見えない世界に価値があると考えて、それをサービスに変えて事業をしています。そういう意味では新国富指標のように、目に見えないものを可視化することを専門とする馬奈木先生の知見で、ストレスがどのようなインパクトがあるのかを色々な切り口で分析してもらうことは大きな価値となります。分析を通して目に見えてくることは、はたらく人個人にもインパクトがあるし、当然個人の集合体である組織にとってもインパクトがあるので、目に見えるデータで出すことができたというのは大きな一歩です。



5. ウェルビーイングから目指すもの


矢野:

ありがとうございます。数字の威力というのは、すごく強いなと思っていまして。人間の認識の限界部分にあったものを数字で表現すると、そこに意識が向きやすい。それが数字が自己目的化して、独り歩きしてしまったり。本当はもっと複雑な世の中なのに、それを単純化して、あたかもそれが真実と取り違えて捉えてしまう。非常にパワフルなツールだからこそ、それを良い社会のために活用することが大事だと感じています。

少し話を変えて、「ウェルビーイング」という言葉に最近注目が集まっていますが、荻原さんの活動されている領域から見るウェルビーイングとはどんなものでしょうか。


荻原:

個人のレベルでは、我々の領域で言うと、メンタルとフィジカル、そして個人をとりまく社会との関係性、この3つが良い状態であることだと考えています。それがまずはベーシックで重要なことと思っています。そして、組織のウェルビーイングというのは、個人個人のウェルビーイングがよい状態であってはじめて集合体としてよい状態になる。今までのお話で言うと、例えば、業績が良く急成長してるけど社員の状態が悪いというのは、やはり中長期的な視点では組織のウェルビーイングが良い状態とは言えません。だからこそ、組織のウェルビーイングを持続可能な形で良い状態にしていくための要素が重要だと思うんです。


矢野:

ありがとうございます。世界各国で、カルチャーも違えば経済状態も違いますが、新国富指標で各国の多様なデータでご覧になっている中で、日本人にとってのウェルビーイングというのを、どのようにお考えでしょうか。


馬奈木:

一般論と個別の話の両方あります。一般的には、ウェルビーイングというのは人の幸せです。ただ、本当の人の幸せはなかなか計れないので、簡易的に、稼ぎが多い人ほど幸せ、としたのが一昔前の話。でも、多くの方は、働くことで悩んだりもする。その中で、住んでる家の環境も緑に面していたらより幸せになる、といった幸福学の研究が盛んになってきました。ウェルビーングも幸福学も目指してるとこは同じで、幸せ度が高い状況を社会で用意しましましょう、組織で用意しましょう、と。そこを、私も大規模なデータを使いながら分析してるんです。

データで見ると日本は、少子高齢化が進んでいて、働いている時のストレスが高く、幸福度が特に4、50代になると低い、という特徴があります。4、50代は一番仕事を頑張っている時期と、子供が育って高校や大学に進学する時期など多くのイベントが重なるタイミングです。そのような中で、日本にとってのウェルビーイングの意味合いは、個々人にとっては「どんな企業で働くのか?」「どういう働き方をするのか?」、企業にとっては「何に投資していくのか?」ということが一番問われるものだと思っています。



6. 今後の探索領域


矢野:

ここまで、お二方のこれまでの活動を中心にお話を伺ってきましたが、ここからはそんなお二人が、今後どんな探索をしていこうと考えているのかお伺いしたいと思います。Reapraは、世代を跨ぐような長期の時間軸で、社会と共創しながらあるテーマを熟達していく「社会と共創する熟達 (マスタリー) 」をReapra Wayとして掲げています。そのため、Reapra社員一人一人が20~30年かけて熟達いきたいテーマ (マスタリーテーマ) を持っており、私でいうと「次世代ファイナンス」というのをマスタリーテーマとして掲げています。その中にさらに、先ほどお話ししたような非財務情報、とりわけ人的資本の可視化というテーマがあるのですが、このテーマはまだ相当に未開拓で、どういう風にアプローチするとよりよい社会につながるのか探索していくステージだと思うので、参画・賛同してくれる仲間をどんどん一緒に広げていきたいと思っています。

同じような切り口で、荻原さん、馬奈木さんは今後どういうところを探求していきたいと思われていますか。


荻原:

私たちは「はたらくをよくするエコシステム」という風に定義しているのですが、そのエコシステムづくりをしていきたいと思っています。これまでの事業では、お客様とは、企業対企業の取引で一対一の関係でした。扱うテーマがメンタルヘルスや企業の課題、悩みといったものなので、コンフィデンシャルな情報や機微な情報があり、一対一の関係である必要があったというのが背景です。ただ、そこで積み上げきた情報は、ミクロで見るとその一社のために寄与していることや、その会社が良くなっていくとか働く人が良くなっていくポイントですが、マクロで見ると、ビッグデータで貯まっている部分もあるし、知見として溜まってきてる部分もあります。今後は、そこをもっと生かしていきたいと思っています。

個と個で支援してきたものをエコシステムと表現している中には、その企業のお客様との関係もそうですし、今回の馬奈木先生のようなアカデミアの先生方との共同という協同もありますし、その領域で同じ思いで、ビジョンが隣接していて、当社だけではできないような企業とのパートナーシップもあると思います。そういった形で「はたらくをよくするエコシステム」を創って、色々な社会課題を解決していきたい。時代とともに「はたらく」にまつわる社会課題は変化していきますが、そこを事前に察知・予防するとか、直接解決するとか、よりよくするということを、事業を通じて実現していきたいと思っています。

ピースマインドが馬奈木先生と協同で「はたらくをよくする新しい指標」として、今研究・探索を始めているのも、その一環です。今実際「何が働く個人のウェルビーイングに帰するだろう?」ということや、「組織がどうやったらよくなる?」ということを、我々のデータや、その実践を通じて得てきた知見を活用して色々分析をしていくことで定義をしたり、指標を作ったりしています。それを企業に利用していただいたり、データーがさらに溜まっていき多様な形で活用がされていくと、より解像度が上がっていくと思っています。さらに、そこから得たデータも組み合わせて当社のサービスの活用が進み、エコシステムの輪郭が広がっていけば当然その受益者が広がっていって、個人の課題の予防や解決に繋がり、個人の「はたらく」もよくなります。そしてチームや職場、会社全体がよりよくなっていく。そこの数値が良くなっていけば社会全体ウェルビーイングが高まっていくような構想を事業を通じてやっていきたい、という思いでいます。


馬奈木:

私がやってることは複数の分野の統合です。例えば、会社の組織という観点でいうと、社員のメンタルヘルスは大事なテーマですが、私はメンタルヘルスの専門家ではないので、働く人と組織のストレスに関することは荻原さんに教えてもらいました。その一方で、医学や都市計画の分野の知識があるので、個人の健康にとって良い住宅のあり方が分かります。例えば昨年末に始まったプロジェクトでは、医学住宅というものを作って、住みやすいおうちを作ることに取り組んでいます。本当に健康寿命が保てて、住人が病気になる前に知らせてくれるようなセンサーを、医学者・病院・システムエンジニアと一緒になって開発して、行政とタッグを組みながら活用しているのです*。こういう複数のあのグループと一緒に統合しながら、新しい課題を解決するっていうのがやりたいことですね。

*参考記事:「新国富指標」を活用したまちづくりに福岡県中間市と連携



今回でいうと具体的には、荻原さんたちが持っているストレス関連のデータと、我々が持ってる元の大規模なデータとを合算します。そして次のステップとして、特定の会社がピースマインド社のベンチマークデータやソリューションを使いながら、その効果を検証していく。もっと組織改善をしようというときに、継続してその組織で社員の人たちが働いた後に、ストレスが改善しているのかどうか、をデータを活用して分析するといったことです。同様に全体としてウェルビーイングが改善しているかどうかも見ていきます。

組織のやり方を変えたら実は悪くなる場合もあると思うんですね。例えば、ESGが話題ですけど、ESGをやりすぎる、ガバナンスをやりすぎると、一部では悪影響も出たりします。ただ、特定の場合を別にしたら、多くのケースでEとSの環境と社会がプラスに働いたとか。そういうことが数値ベースで我々は分かるので、組織をより強くしていくことなどを、サポートする仕組みづくりを一緒にできたら、私は新しい統合のやり方としては非常に面白いと思っています。



7. 次世代へのバトンを繋ぐために


矢野:

我々としては、起業家が長期で歩み続ける旅を支援していきたいと思っていて、ひとつの重要なキーワードとして「世代を跨いでいく」ということがあります。

本日のテーマ「人的資本への投資」の中で、世代を跨ぐという観点では、やはり次世代を担う若手に対する「教育」が重要になってくるのではないでしょうか。まさに次世代に思いを託していくために、その先にバトンを渡していくために、そこに懸けるお二方の思いをお聞かせください。


馬奈木:

次世代と考えると、40人ほどいる自分の研究室の学生ですね。その40人に対しては、いい貢献を残したいと思っています。みんなそれぞれ、渋滞問題を解決したいとか、災害問題を解決したいといった強い興味分野があるので、そこで各々が力を発揮できて一つの課題を自分なりに解決できたら、次のステップに進みやすくなる。そういう成功体験を得ることや、活動の範囲を広げるサポートをすることが、次の世代に対して今一番やっていることです。

また、高校生に対して「持続可能性」というテーマで講演をすることがあるのですが、一番高校生たちに響くのは、国際舞台での活動をどうやって自分なりに失敗しながら進めたのか、というエピソードです。こういった形で、大学生にとどまらずさらに若い世代に対しても、もっと大きくて面白いことがいっぱいあるんだっていうことを多様な分野で伝えることは、私がやれることですし、やりたいと思っています。


荻原:

世代を跨ぐという観点で言うと、私たちのミッションである『はたらく人が抱える「不」を解決し、心豊かな未来を創る』というテーマは、短期的には解決しない壮大な問題をテーマにしていると思っています。まさに新型コロナウイルス感染症が引き起こしたパンデミックが象徴的ですが、予想もしないような社会のうねりや変化が起こるのが当たり前のVUCAと呼ばれる時代に今もこれからもなってきます。そのような変化を大前提のものとして捉えて「どうしたら心豊かな未来を作れるのか?」というテーマに取り組み続けられるように、まずは事業をサステイナブルなものにしなければならないと思っています。そういう意味では、私たち自身がしっかり世代も跨ぐテーマで持続的に価値提供できる事業を継続していきたい。また、企業のあり方を考えても、社会に長期に渡って価値を提供しつづけられる為に企業体があると思っています。もちろん先ほど述べたように私たち自身にも当てはまりますが、顧客企業が、持続可能な組織を作っていくことを支援することが、私たちの使命だと考えています。


 

(文・構成 西 瑞葵/村西 純奈)