
冨山和彦(IGPI)×諸藤周平(REAPRA)の対談動画を見ながら考える ポストコロナの経営テーマ 第2回
Event Report
経営共創基盤(IGPI)グループ会長の冨山和彦氏と弊社代表取締役Founder, CEOの諸藤周平による対談動画をご覧いただき、その内容をもとに、IGPIシンガポール取締役CEOの坂田幸樹氏、弊社取締役MDの松田竹生、同CFOの矢野方樹の3名によるパネルディスカッションを行う形式のウェビナーを2回に渡って行いました。本稿ではその第2回の模様をお届けいたします。 ※第1回はコチラからご覧下さい。
対談動画の概要
本ウェビナーの冒頭でご覧いただいたIGPI冨山氏とReapra諸藤の対談動画の概要をまとめています。詳しくはぜひ本編動画をご覧下さい。
「具体的事象における挑戦・フロンティア」
具体の挑戦(自ら実践し成功事例を生み出すこと)と抽象の挑戦(あるべき姿を一般化して提唱すること)のどちらが重要か。 どちらも重要であるが、特に日本においては同調圧力がかかるなどその文化的特性から、抽象的なロジックで説得するのが難しい。 だからこそ、日本においては特に具象から考えることが重要だ。冨山氏は、n=1を生み出し続けることで世の中の不可逆的な流れにしたいそうだ。「空中戦と地上戦」
地上戦を行うローカルな会社では、サイバー空間でGAFAが成し遂げたような根こそぎのイノベーションこそ起きないものの、 持ち前のローカルでの密度が強みとなる。地上戦は密度の経済性で決するから、空中戦で面白いことをやっている会社も地上戦では優位性をもたない。「中堅・中小企業におけるトランスフォーメーション」
こうしたローカルの中堅・中小企業は、古い産物を残している会社が多くトランスフォーメーションが必要になってくる。 そこにデジタル技術を入れて、持続的にサービスを切り替えられるようにしようとすると、必然的に新しい価値観をもった組織のメンバーが必要になってくる。「第二創業とスタートアップの繋がり」
第二創業とスタートアップ、お互いに共創できる部分はあるだろうか。デジタルベースのイノベーションに接点を持ちづらい中堅・中小企業には、スタートアップが彼らとのインターフェースになればいい。そのためには、スタートアップの言葉と伝統的な古い会社の言葉の「2つの日本語」を操ることも求められる。
また、30代〜40代の商社マンなど、起業したいエネルギーが溜まっている人は多い。デジタル化により彼らが行っていた社内調整の仕事がなくなっていき、彼らの行き場が減っていく。一方で、そういった方々は基礎能力が高いから、ローカルでの戦いで成果を出せる。それゆえ、大企業の人材とローカルな中小企業とのマッチングにより、労働市場全体の生産性も上がる。
IGPI坂田氏 × Reapra矢野・松田の対談
前半の対談動画での話題を切り口に、IGPI坂田氏、Reapra松田・矢野の3名それぞれの取り組みをシェアしながら、パネルディスカッションを行いました。

対談動画をもとに、我々から4つのテーマをピックアップいたしました。
・具体的事象における挑戦・フロンティア
・空中戦と地上戦
・中堅・中小企業におけるトランスフォーメーション
・第二の創業とスタートアップの繋がり
こちらのトピックに沿うような形で、広げながら話を進められたらと思います。
「具体的事象における挑戦・フロンティア」

Reapra矢野:
動画中で、日本人や日本社会の固有性を考えると、いきなり抽象から入るのではなくて、具体的な取り組みを切り口に入っていくのが重要という話をされていたかと思います。
IGPIが東南アジアで活動される中で、坂田さんはどんな具体的な事象に挑戦されているのでしょうか。
IGPI坂田:
我々の場合、大企業の支援をさせて頂くことが多く、実現可能性を上げるためには多くの人の賛同を得る必要があるため、 具体的な事象に落とし込むことは極めて重要だと思っています。まず前提として抽象化されたレベルでアーキテクチャ・戦略を描き、 そして具体的な事例を作っていくことに我々も挑戦していますし、クライアントさんの支援をさせていただいています。
例えば、先日KKファンドというVCと提携させていただき、大企業と東南アジアのスタートアップの連携をサポートするプラットフォームをつくりました。 大企業が既に取り組んでいる既存領域のみならず、フロンティアを開拓し、社内ベンチャー的に事業を立ち上げたりして具体に落とし込んでいくことが大事だと思っています。 先駆者は社内でも社外でも非難に遭って大変なので、そういった先駆者を経営者がサポートし、 仮に先駆者が失敗してしまっても挑戦したことを会社として褒め称えることが大事なのかなと思っています。
Reapra矢野:
ありがとうございます。チャレンジしていくことを仕組みという面からも支援する必要があるというお話だと受け止めました。
Reapraでも多くのスタートアップに投資をし、ハンズオン支援を進める中で得られる知見・一般解を産業創造という形で社会に還元することができるのではないかと 思って活動しています。この点について、松田さんから見える景色をお話し頂けますでしょうか。
Reapra松田:
ReapraはResearch and Practice(研究と実践)の頭文字を取って社名を名付けています。 研究と実践を通じて産業を創造し、社会に貢献するというのが会社のミッションであり、長い時間軸で産業を複数作ることにチャレンジしていきたいという思いでやっています。 コンセプトとしてはかなり抽象的ですので、実践ができるのかが問われています。諸藤が前職のエス・エム・エスをゼロから立ち上げ、その後20年近く経って産業の礎になってきています。今度はそれをReapraで複数形にすることが私たちのチャレンジかなと思います。
Reapra矢野:
ありがとうございます。私がReapraで活動していて思うのは、起業家の方々など人それぞれ固有性があると思っています。 人の固有性を引き出すためのやり方については、私たちが一般化して皆さんに活用して頂ける部分があると思っています。 ただ、固定的な一般解を与えるだけではなかなか本人がダイナミックに動機付いて長い時間軸でその動機を持続させるのは難しいのではないかと思います。 そのため、固有性に寄り添いながら再現性を持たせるやり方を日々を探索しています。
「空中戦と地上戦」
Reapra矢野:
次は、「空中戦と地上戦」についてです。冨山さんがスタートアップの例としてUberを、 ローカルの例としてバス会社の話を、それぞれ挙げていたと思います。 IGPIさんの取り組みについて詳しく伺えますでしょうか。
IGPI坂田:
東南アジアでは他の先進国に比べると、空中戦と地上戦の連動がないといろんな産業が成り立たないと思っています。
例えば、Uberが最初にインドに進出したときには、空中戦と地上戦の連動に失敗しましたが、地上戦に力を入れることで後に成功したのです。
東南アジアのスタートアップをみていると、このあたりの空中戦と地上戦の連動がをうまくやっています。
本来は空中戦のモデルなんだけれども、地上戦でローカライズしてうまくやっているプレイヤーが多く、
このあたりの考え方は先進国とは違うのかなと思っています。これは恐らくローカル産業のクオリティに起因しています。
中間層向けのサービスのボラティリティが高いのです。Gojekはまさにこの類いで、プラットフォームで解決するのではなくて、
いわゆる泥臭い人海戦術的なことをやっています。
日本企業・大企業という文脈で見ても、地上戦でどんどん価値を出していきつつ、
空中戦型のプレイヤーと連携していくような戦い方ができるのかなと思っています。
Reapra矢野:
ありがとうございます。一方で、スタートアップと十把一絡げに言ってもいろんなアプローチの仕方があるのではないかと思います。 関与変数をなるべく少なくしてビジネスモデルを作っていく手法もあれば、複雑性をそのまま受け止めながら関与変数を意図的に減らさずに 長い時間軸で育てていく手法もあります。Reapraとしては、後者を志向する起業家を応援していきたいと思っています。 その観点から空中戦と地上戦を捉え直したときに、Reapraでやっているチャレンジや松田さんがハンズオン支援する中での難しさをお話し頂けますでしょうか。
Reapra松田:
空中戦はローカルでオペレーションが非常に大事で、どうしてもリアルな人とのコミュニケーションが欠かせない、 まさにゲリラ戦だと冨山さんのお話にありました。Reapraは、ビジネスモデルから見るのではなく、領域※1をみて投資判断をしています。 陳腐なビジネスモデルでオペレーションを強くしてキャッシュを獲得して、その領域に地上戦から入っていきます。 そこから徐々に空中戦に繋げ、複雑性を捨象せずにマーケットリーダーを目指しています。 地上戦から入って空中戦に繋げていくというところがまさにIGPIさんと近しいと感じました。
※1:事業領域のこと。Reapraでは、複雑性が高いがゆえに現在は小さいが、将来大きくなる事業領域(Promising Business Field; PBF)での起業への投資・支援にフォーカスしています。
「中堅・中小企業におけるトランスフォーメーション」
Reapra矢野:
ありがとうございます。ローカルな地上戦で重要になってくる中堅・中小企業に対して、具体的な事象でIGPIさんは活動されていて、 またReapraも実は近いところでやっているのではないかというお話だと思います。 前回のウェビナーで松田さんから、ガバナンスにおいて自分のアイデンティティ・ 自我に自覚的になることが本質的には重要なのではないかという話がありました。 個人が自分を知り自己変容することと、中小企業におけるトランスフォーメーションという点について、松田さんから詳しくお話いただけますでしょうか。
Reapra松田:
Reapraは、ベンチャーだけでなく、企業が成長し衰退していくフェーズも含めて、産業全体の構造を把握したいと考えています。
日本では、承継の問題が非常に深刻な一方で、都市部に経営に興味があり能力もある30代〜40代の方がかたまっていて、
そういう方々が何かの理由があれば地方で経営をすることもできると思います。ここに産業創造のヒントがありそうです。
起業家が自身の内面を知ることが、組織の構築や文化の構築に繋がり、ひいてはガバナンスの根幹となるという考えは、
中小企業におけるトランスフォーメーションや第二の創業という形で企業が形を変えていくときにも応用できるのではないかという仮説を持っています。
是非この辺りもReapraとしても実践を進めていきたい場所です。
Reapra矢野:
ありがとうございます。今の松田さんの話を聞いて、坂田さんはどのようにお考えでしょうか。
IGPI坂田:
我々は日本でも東南アジアでもいろんな中小企業の事業承継のテーマに取り組んでいます。
東南アジアにおける創業世代で少し古い考えを持たれている方の承継の問題を取り上げると、「富の承継」「リーダーシップの承継」「ビジネスの承継」の3つの問題が混じって
議論されてしまっています。この3つをいかに切り分けて承継をしていくかというテーマでの支援をさせていただくケースが結構多いんですよね。
日本以上に中堅・中小企業が東南アジアではかなり分散化しています。
例えば、タイの食品会社の数は人口1人当たりで換算すると日本の6-7倍くらいあるんですよね。
マーケットが非常に非効率で限界に直面しているので、そういったところにトランスフォーメーションの機会があると思います。
Reapra矢野:
ありがとうございます。Reapraでも、次世代に繋ぐことを意識しながら事業を作っていくがゆえに、自らを知り、
自らのアイデンティティからくる制約やバイアスについて自覚的になることがリーダーとしても非常に重要なことなのではないかという見方をとっています。
今坂田さんからありました承継の3分類について、松田さんはどのようにお考えでしょうか。
Reapra松田:
自分の中で関心が高いのは「リーダーシップの承継」です。「富の承継」はファミリーで受け継ぐものがベースになると思いますが、
「リーダーシップの承継」はどうしてもファミリーだけでは完結しません。人材を確保することや、長い時間軸でみて外から新しい収益の種を入れることなどが求められます。
東南アジアでは「リーダーシップの承継」において、ファミリー以外を取り込んでいくことはどう見えていますか。
IGPI坂田:
徐々にファミリー以外から迎え入れるという動きが出てきているように思えます。 一部外部の株主を迎え入れ、リーダーシップも外部から迎え入れるというのはタイの企業などで見られる動きです。 タイではプレイヤーが非常に分散化しており、自国でも主要な海外市場(中国・韓国・日本)でも事業が伸び悩んでいて、 なおかつ他の東南アジア諸国から競合も出てきていて、ファミリー以外のリーダーシップを取り込むことは待ったなしの状況になりつつあるのかなと思います。
Reapra松田:
ありがとうございます。
「第二の創業とスタートアップとの繋がり」
Reapra矢野:
30代から50代に大企業で眠っている有望な方が実は多くいるのではないかという話がありました。 また、そういった方々と協働していくときに、「2つの日本語」を操ることが求められるという話があったかと思います。 我々この3名は、東南アジアでも活動しているメンバーとして、2つの日本語の域に留まらず、 別の文化・別の背景から来ている方とお話しする中で、コミュニケーションの難しさを感じられていることなどがあればお伺いしたいです。 坂田さんいかがでしょうか。
IGPI坂田:
東南アジアでの大企業の取り組みをみるに、それぞれの国の言語の違いと、 大企業とスタートアップの言語の違いの両方について橋渡しができる人でないと、 事業の立ち上げは難しいと思います。なので、例えばローカルスタッフの中で将来幹部にしたい方に社内ベンチャーの社長をやってもらうことを推奨したりしています。 そしてその人を日本人が精一杯バックアップしていく形で、言語間の橋渡しをするアプローチをとったりしています。
Reapra矢野:
ありがとうございます。Reapraも最初は日本人だけ数名から始めたところから、今では多くがローカルの方だと思うのですが、松田さんにはどう見えていますか。
Reapra松田:
言語として日本語の世界観の方が進みやすいこともそもそもあって、その世界観を東南アジア側と繋げていくというチャレンジがあります。
なかなか一朝一夕では進みませんが、日本で実践したことが東南アジアに使えるだけでなく、東南アジアでの実践が日本に繋がってきつつあります。
これが進めば進むほど、より自分たちが掲げているミッションに近づいていけると感じられています。
大企業に眠る有望な方の活用について言えば、大企業の年上世代と、スタートアップに関わっていく20代の方々との橋渡しにおいて、
40代あたりの我々ができることは多くあるように感じています。こうした橋渡しの機会を模索していきたいと考えています。
Reapra矢野:
予定通りジャストの時刻になりましたね(笑)皆様ご参加いただきありがとうございました。今後もIGPIさんとReapraで何か一緒にできないか探索をしていきたいと思いますので、 皆様にも随時ご案内できたらと思います。改めまして、皆さんありがとうございました。
(文・構成 出口啓悟/中島慎治)
※なお、今回の対談はYoutubeで公開もされています。
Youtubeはこちら

坂田 幸樹 IGPIシンガポールCEO
外資系コンサルティング会社、外資系消費財メーカーを経て、リヴァンプに入社。ディレクターとしてアパレル企業、ファーストフードチェーン、システム会社などへのハンズオン支援(事業計画立案・実行、M&A、資金調達など)に従事。リヴァンプ支援先のシステム会社においては代表取締役に就任し、経営改革を推進。IGPI 参画後は、ロジスティクス、メディア、テレコム、広告、製造などの幅広い業界においてグローバル戦略立案・実行支援、クロスボーダーM&A の支援に従事。早稲田大学政治経済学部卒、IEビジネススクール経営学修士(MBA)

松田 竹生 REAPRAグループ CGO
グルーポンジャパン、エニグモのCFOとして2006年から合計7年間に渡り経営全般を指揮。2013年以降、シンガポールに拠点を移し、アジアでのシード投資等に従事。2015年1月にREAPRAにジョインし、CFOとしてファイナンス及び管理全般を管掌。2018年4月以降はグループ全体のコーポレートガバナンスを統括。CFO以前は、リーマンブラザーズ証券にて投資銀行業務 、監査法人トーマツにて監査業務等に従事。テキサス大学オースティン校経営大学院(MBA)、慶應義塾大学経済学部卒。

矢野 方樹 REAPRAグループ CFO
モルガンスタンレー(日本)にて合計17年間に渡り勤務。Equity Capital MarketsのHead / Managing Directorを務め、様々な産業領域、企業規模に対して、クロスボーダーでのIPO前後の資金調達にまつわる業務に従事。またプライベートエクイティファーム、アドバンテッジパートナーズにて未公開企業での経営支援の経験も有する。東京大学経済学部卒。